三越本店の天女像は大きい。何年ぶり、いや何十年ぶりだろうか。5階までの吹き抜けで立つが、天女ご本人はそれほど大きくはなく、光背というのでしょうか、後ろの飾りが大迫力。時折、空間をパイプオルガンの生演奏が響く。入り口のライオンもそうですが、目先の商売っ気とはかけ離れた先人の意識を感じる。しかし、人出も以前の状態に戻らず、立ち止まる人も少ない。観光客もいない。私ひとりオノボリサンとして見上げていた。
1960年に置かれたものという。その時のニュースはかすかに覚えている。制作に約10年かかったので、始まった1950年といえば、敗戦の5年後。1960年には池田勇人内閣が所得倍増計画を打ち出した頃。もちろんまだ倍増してはいなかった。まだ貧しかった多くのおとなにとって、天女の存在はどう映ったののだろうか。一年に一度訪れるだけのこどもだった私は、デパートの食堂で食べるご馳走ががお子様ランチからカレーライスにかわる年齢。家で作るライスカレーは、ご飯に黄色い糊のやうなカレー汁をかけたもの。デパートでは、アラジンのランプのような不思議な形の容器に入って出てくるカレーを、何回かに分けてお皿のライスにかけるなんとなく儀式めいた所作。これはカリー・アンド・ライスだという。福神漬けが添えられていた。そんな時代の天女像が工芸のピンなら、その後60年の今も作っている鍋は工芸のキリということか。本館5階の展示は今日が最終日です。
日本橋三越で展示中のフライパンと片手鍋。銅のフライパンは強火で降って使う炒め物よりは、弱火で綺麗に仕上げる料理向き。小ぶりのものが中心です。片手鍋も浅いタイプはフライパンとして使える上に、丸縁の上に木蓋をのせて蒸したり煮込んだりもできる。少し深めのものは、プロが使うソテーパン。機能性重視の道具ですが、食卓にそのまま出せるデザインで、熱々の料理が楽しめます。
展示は本日29日が最終日です。会場にはいけませんが、質問やオーダーのご相談など、係員にお申し付けください。わからない点など、携帯090−4180−2478(寺山)でもお受けします。