春から冬に逆戻りのー10度  注ぎ口について酒器大No.4631,4632を例に

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    ノボロギクB3月昼間の陽射しが温める焼け石に石垣に生えるノボロギクが寒さに耐える様子を少し前に紹介しました。同じ株が今週は花や蕾を増やし、春を迎えています。動物の場合は気温の上昇だけではなく、日照時間が伸びることで春のスイッチが入ることが多いようですが、視神経がない植物はどうでしょうか。乾燥地帯なら降雨が成長のきっかけになることもあるでしょうが、日本の環境ではやはり気温にもっとも左右されると思われます。

     

    春の便りに注目していたら、今朝は氷点下10度。冬型の気圧配置に逆戻りです。温かい日で気が緩んだ身には多少きつい寒さですが、植物だって不用意に新芽を出したりすると、5月の霜害のようにもたげた頭をたたかれることがあるかもしれません。

     

    注ぎ口昨日の仕上げは酒器の大2点。注ぎ口をアップで写しました。焼き物の注ぎ口は壊れやすく、そのためにあまり薄く作ることができません。その結果、どうしてもきれいに水が切れず、回り込んでしまいやすくなります。その点、金属では注ぎ口先端部を薄く作れますので、水切りは問題なし・・・のはずですが、市販のやかんにはお行儀の悪いものが多いようです。薄くしても割れることはありませんが、ぶつけると変形しやすいことは避けられません。

     

    修理に戻ってくる片手鍋では、多くの場合注ぎ口の変形が見られます。錫引きなど、他の部分の修理も必要な場合は、送っていただいた方がいいのですが、注ぎ口の歪みだけの場合はご自分でも多少修正できます。まな板の上に片手鍋や酒器を裏返しに伏せて置き、利き手ではない方の手で本体を少し注ぎ口の方に傾けます。その状態で利き手にしゃもじを反対向けに持ち、しゃもじ柄の先端の平らな部分で歪んだ注ぎ口の先端部を裏側からまな板の押し付けると、案外簡単に修正できます。フライパンの注ぎ口もお試し下さい。ご自分でやれるか、他の部分の修理も必要かなど、判断がつかない場合は、写真を何枚か添付して、メールでご相談下さい。

     

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    銅パイプに鎚目をほどこす作業と道具 酒器成形の鎚と芯がね

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      酒器の鎚目このところ度々登場する酒器ですが、酢重鍋とともに新しく開店するレストランのオーダーです。まとまったオーダーでも、作るのは型でガチャポンとは行きませんので、特に旨味はありません。それでも、売るための営業時間がかからないことがありがたいと言えます。

       

      切った銅パイプに銀ロウを融かして流し、冷えてからきれいに酸で洗って成形にかかります。注ぎ口を除いて、2種類の鎚で表面に鎚目を鎚ち付けながら、同時に上下端は広げ、中心部は絞り込むように形を整えて行きます。上部の銀流しの部分はザラザラの鎚目。荒らし目と言っていますが、人によっては砂目とか、柄によっていろいろな呼び方があるようです。下部は縦長の鎚目。右の鉄棒は芯がねと言い、パイプに中に差し込んで、鎚でうつ打撃を受けとめる金床の一種です。これがないと、鎚つたびにボコっとへこんで形を成さなくなります。

       

      酒器の鎚左端の鎚で縦長の目をうちつけますが、この鎚は鍛金用の硬い鉄で、好みの角度や丸みを削り出して作ります。真ん中が銀の部分を鎚つ鎚。市販の比較的柔らかい金鎚の表面をデコボコに荒らしてあります。この場合はランダムに荒らしていますが、好みでいろいろな模様にすることが出来ます。道具としての機能性が問われるものが多く、私は柄や色にこだわるよりは形・姿の勝負と思っていますので、鎚目はシンプルに。荒らし目を施した後で、あまりザラザラ引っかかるようでは困るのと、銀の輝きを出すために、右端の鎚で軽く表面をならすように鎚ちます。この鎚は打面に傷があると、それがうたれる側の金属表面に転写されますので、たえずピカピカに磨いておくことが重要です。

       

      酒器鎚目終了鎚目と成形を同時に進めて、全体が鎚ち終った状態です。銀と銅の境目辺りでは、もとのパイプの直径より5mmほど細く絞り込み、上下端は5〜7mmほど広がるように鎚ってあります。ならし鎚ちはこれからの状態で、先に口を鎚ち広げます。よく見ると、右側のものは底の近くでいくらか急に広がっていますので、その前に修正する必要がありそうです。これも好みの領域ですが、上部は曲線的に広げて、銅の部分はどちらかと言うと直線的な広がりにしています。このあたりになると、そのときの気分次第で変わってきますが。

       

      底を作ってから錫引きですが、覗き込みながら細長いパイプ状の内部にむらなく錫を融かして流すのは、あまり楽しい作業ではありません。はっきり言うと嫌な仕事ですが、底と本体を漏れなくしっかりと固定するためには、もちろんメッキで仕上げるわけにはいきません。

       

      鎚目についてざっと書いてみました。柔らかいアルミのペン皿や板に、簡単な鏨(たがね)で絵柄や名前を彫る作業を中学校で習った人もいるでしょう。鎚目は鏨を使わす直接鎚でうつため、同時に成形も行います。プロとしての微妙なコントロールや緻密さは要求されますが、やっている動作は単調な繰り返しです。
       

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      お正月の凧揚げ 酢重鍋の修復

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        凧揚げAお正月の写真です。年寄りぶって、最近の子どもはお正月らしい遊びをしないで、ゲームばかりしている、などと言うつもりはありません。公園では都会から来たらしい親子連れがかなり見られました。児童館や保育園では、独楽回しやカルタ取りをおしえています。物忘れの進んだ年寄りでは、百人一首で小学生に負けてがっくりということもありそうです。

         

        今年のお正月は穏やかな天候で風も弱く、凧揚げは苦労していたようです。寒い中を走れば体も温まります。寒の入り以降は冬本番の寒さと積雪。この3日間は氷点下12度前後。昨日から日本海側は大雪のようですが、冬型の気圧配置では内陸の軽井沢は手前の山脈で雪を落して、ひたすら寒風がふくだけになります。雪がないと土ぼこりが舞って、喉をやられる人が増えますが、現在の積雪15cm、雪は融けるのではなく蒸発(昇華)していきます。

         

        酢重鍋修理

        昨日は、酢重鍋の修理。酢重レストランが開店した初期のもので、20年近く毎日何回転もご飯を炊いてきた鍋です。当時は「酢重」の銘を持ち手の下に遠慮がちに入れています。現在は両手の間、大きさは同じですが正面に堂々と刻んでいます。本体も蓋も何度か落したらしく歪んで蓋が合わない状態でしたが、空焚きによる焼き鈍りはなく、ざっと鎚って形を整え・・・・このような場合いちばんやっかいなの錫引きです。最後にピカピカに磨き上げて修復終了。レストラン酢重のカウンターに復帰です

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         


        銅器に銘を刻む 鏨とおたふく槌

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          鏨とおたふく槌

          戦後の一時期、民芸運動を中心に工芸制作の一部では「無名性」ということが言われました。貴族社会で使われる工芸品と違い、一般庶民が日常使う道具は「名もない職人」によって作られてきたことから、現代の作り手も名前を売り出して価格を上げて、生活から遊離した「作品」になることを戒める意味だったと思います。しかし、その民芸運動を展開していたのは「有名作家」「有名評論家」でありながら、一般の職人に無名性を説くと言う矛盾も感じられました。周囲を見れば、余程のまがい物、クレームから逃げたい粗雑な製造物でない限り、量産品には製造元、ロゴが入っています。銘を入れたことで特別高く売れる、なんてことになってもいないのに、銘を入れるかどうか悩んでも仕方ありません。そして今日に到るまで幸か不幸か、その悩みに苛まされることはありませんでした。

           

          酢重/銘上の写真で扇状に並べてあるのは鏨(たがね)と呼ぶ道具。先端があまりノミほどは鋭くない両刃で、細い線を刻む「毛彫り鏨」と呼ばれるものです。左の三つは鏨用の鉄棒を好きな形状に研いで作ります。右の二つは切り鏨で、ここでは直線の彫りに使っています。鏨を鎚つ頭の短い槌は「おたふく槌」とよんでいますが、さて若い人にその語源がイメージできるでしょうか。

           

          右の写真は酢重鍋の銘入れ。これはレストランのお客様にも見えるように少し大きめで、一字が14mm四方。あまりひどい失敗をすると、それまでの何日間もの仕事がフイになりますので、小さな作業ですがかなり緊張します。サインペンで下書きして、切り鏨で細くなぞり、鈍角の毛彫り鏨で肉付けします。

           

          通常の銅器や銅鍋にはシンプルに「寺山」とだけ、5mm四方ぐらいの字で刻みます。こちらは何千回もやってきた作業ですので、下書きもなしでトントンと。目立たせることもなく、さりとて隠すものでもなく、さらっとどこかに刻まれています。

          寺山/銘

           

           

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          銅蓋につく真鍮のつまみ/工程と形について  The brass knob of copper pot lid / About the shape and the production process.

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            蓋つまみ

            鍋の銅蓋のてっぺんにつく「つまみ」。市販品の場合、家庭用では木やプラスティックで作られていることが多く、業務用では蓋の素材と同じことが多いようです。私も以前は銅で作っていましたが、持ち手を銅から真鍮に変えた頃から、つまみも合わせて真鍮にしました。無垢の丸棒から造りますが、真鍮は銅より硬く、加熱状態でも鎚ち延ばすのに時間がかかります。冷えた状態で鎚つ鍋本体と違い、熱いうちに鎚つためヤットコで掴んで作業しますので、あまり細やかな仕上がりにはなりません。もちろん、際限なく時間をかけられるのであれば、「芸術的つまみ」を作れるでしょうが、つまみのために価格をウン?万円高くするわけにもいきません。もっとも、いくらかかってもいいから「芸術的つまみ」を作ってほしいと言われたら、ハタと考え込んでしまいそうです。

             

            写真右は素材となる真鍮の丸棒、その右は鎚ち延ばして丸くし継ぎ目を銀ロウで溶接した状態、さらに右端の芯金(鉄の丸棒)で形を整えてから表面を鎚って鎚目をほどこし取り付け穴をあけた状態です。写真左、右の工程で仕上げたつまみを蓋に中心に銅のリペットで取付て、隙間に錫を流します。リペットだけではツマミが回転しますし、隙間に入った水が錆のもとになりますので、錫を融かして流すのですが、市販のものではこの工程を行っているものを見たことがありません。

             

            真鍮は銅ほど熱伝導が良くなさそうですが、それでも直接手で持つと火傷します。鍋つかみやタオルで持ち上げやすい形状にしないと危険です。この円形の形は、一種のトレードマークでもありますが、急いで蓋を開ける時には菜箸でもおたまの柄でも通して持ち上げられます。これは意外に便利。収納するにはちょっと邪魔ですが、しまい込む暇がないぐらい使い込んでいただければと思っています。

             

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            落とし蓋の説明をつけることにしました。 How to use the small wood lid in deep inside of the pot.

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              2016.11.13.枯れ葉に霜この数日、暖かいと言っても早朝は氷点下。枯れて落ちた樹々の葉も、霜をまとって朝日に輝くと、がぜん美しくなります。

               

              いつものことですが、展示会の会期が始まってお客様が手にとって見始めると、あれがたりない、これも足りないと気づいて、ああもっと作ればよかったのにと反省が始まります。毎日10数時間の労働が続くブラック自営業ですので、反省したとて以後ポコポコと作品を増やせることはありません。しかも、展示会直前は出品一覧表やプライスカード、荷造りなどの事務・雑用が重なります。もう何年も前から、会場でお客様に見てもらえる動画を作りたいと思いながら、今年もまだかないません。かわりに、作品の種類ごとに葉書サイズの説明を添えていますが、伊勢丹新宿店の展示で痛感したのは、せめて英語の説明があったら良かったということ。中国語版もあればと思いますが、私の力ではとても及びません。自動翻訳という手もありますが、翻訳の間違いもチェックできないのでは不安が残ります。と言ってビビっていてもしかたないので、来年はチャレンジしてみましょう。

               

              鍋そのものについてはなんとか英語でも説明を試みてきましたが、意外な落とし穴はオマケにつけた「落とし蓋」。落とし蓋で煮炊きするのは日本独特の調理法なのかもしれません。購入された外国のお客様が帰宅して鍋を取り出して気づき、木蓋のサイズが小さすぎるから交換してほしいというメールの連絡が続けてありました。両手鍋の追作オーダーされたお客様には、新しく「木落とし蓋 The small wood lid 」の説明文を鍋に添えて送りました。怪しげな英語ですので、間違いがあればご指摘をいただけるとありがたいです。日本人でも若い世代は、洋食や炒め物が多いので、落とし蓋の良さを知らないかもしれませんね。

              落とし蓋/説明ハガキ

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              新しい電動工具

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                新しい道具

                 

                左上の真新しい電動工具。卓上丸鋸に金工・木工兼用刃をつけて、既に試運転済みです。真鍮無垢棒が何本も束にしたままで、サクサクっと切れます。水平・垂直方向に斜め切りも、幅広の板も切れる予定。さて、どれぐらい出番があることやら。作業時間の7割ぐらいは鎚でたたいているので、時間的には切る作業はせいぜい数%。能率アップより、きれいで自在な切断が狙いです。これまで、木工は右上のジグソーを主に使って来ました。35年になるベテラン工具です。

                 

                左下は電動切断機。これも30年は使っています。直径の大きな銅パイプも切れるので、出番は減りますがこれからも使うでしょう。切りくずが粉末状で飛び散るのが難ですが、無骨な割に切断面はきれいです。右下の二つは手動。上はパイプカッターで、丸い小さな刃とローラーの間にパイプをはさんで、右のハンドルでじわじわ締め付けながら、カッターを回すと刃が食い込んでパイプが切れます。パイプ切断面の内側に押されて出来るバリが問題です。その下のヤットコ風の道具は、丸棒状の金属を切るカッター。梃子の原理を2回使っているので、弱い力で楽に切れます。どちらも手動で力をどのように一点に集中させるのか、ユニークな構造の道具です。

                 

                さて、新しい卓上丸鋸。十徳ナイフのような多機能より、道具はシンプルで単機能が好みなので、ちょっと異質な新工具です。価格は3万5千円ほど。それでも、カメラやパソコン周辺の道具類を除くと、最高価格。ふだん、如何に原始的な道具ばかり使っている事か、想像がつくと思います。

                 

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                両手鍋の粗鎚ちと仕上げ鎚ち

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                  両手鍋途中

                  しばらく新作の紹介が途絶えています。その間、オーダーの溜まってい両手鍋に一斉に取りかかっていました。写真の他にも数点同時に開始ですが、進行の具合はばらばらです。前列左側は木蓋を乗せるタイプ。右側は酢重レストランで使う大きな深い鍋です。左上は炊飯型の中ぶり。仕上げ鎚ちが終ってこれから蓋にかかります。

                  炊飯型は本体に段差を作るために、仕上げ鎚ちに時間がかかります。写真にある他の鍋全部を銅板からあらかた成形するまでの時間と同じぐらい、一つの仕上げにかかります。その工程で描く微妙な曲面が勝負どころです。そこまでの粗鎚ちは機械でも出来ますし、一年ぐらいの経験でも手鎚ちで出来るでしょう。その工程に時間がかかるのであれば、外注したり人を雇ったりということも考えられますが、実際はそれほど時間がかかりません(と言っても2〜3時間でざっと成形できるのは余程小さな片手鍋ぐらいですが)。緻密な丁寧さと形に対する感覚が要求される仕上げ鎚ちを任せられる人を育てるには、5年以上かかると思われます。しかも、仕上げの要求水準が自分の中で高まる程、その水準を満たすためにかかる時間が長くなります。腕が上がるほど時間がかかるようになると言うと解りにくいのですが、品質が良くなるほど時間がかかるというと、納得していただけます。どうも、そのあたりがこの仕事の限界というか、いい仕事をする人がいなくなって、絶滅危惧職と自嘲する原因のようです。
                   
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                  真鍮の丸棒を熱しながら、鍋の持ち手を作る

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                    日の出冬至の頃に撮った日の出。一番手前のボロ屋根が作業場です。暖かい朝でしたので、霜も降りていませんが、今朝はマイナス10度。寒波様のお越しです。世間はすっかり年末モードで、スーパーの売り場配置も正月用品がのさばっています。セットのお節料理を予約する人もいれば、5日も前から手料理で準備する人もいるのでしょう。年末年始もなく仕事が続きそうですが、観光地軽井沢には、休暇を楽しむ人々のために、自分の休暇は後回しという人がたくさんいます。昔ほどではありませんが、田舎に残った長男の家は、都会に出た兄弟家族の帰省で大忙しがしということもあります。そんな地域では、自分たちの新年を旧正月に変更しても良さそうです。1月末の展示会が終了してから、私も新年をゆっくり楽しみたいと思います。

                    持ち手を作る鍋本体を鎚ち終ってから、細かい仕事が続きます。最初に真鍮の丸棒から持ち手を作るのですが、鍋の側面のカーブに合わせなければなりません。最初の頃は持ち手も銅で作っていました。雰囲気はいいのですが、強度を持たせるために太めの丸棒を使用しますので、その分重くなります。真鍮にかえたことで、少し軽くし上がり、印象も明るくなりました。

                    真鍮は銅より硬く、伸ばしたり曲げたりするのに、何度も加熱して鎚たなければなりません。鍋本体は焼き鈍した後に冷えてから手で持って鎚ち絞りますが、持ち手は熱いうちに鎚って成形します。ヤットコでくわえなけ
                    真鍮持ち手ればなりません。右上の写真中央は西洋金床(アンビル)と呼ばれる鉄の塊で、馬の蹄鉄を整形するのに向いた形をしています。No.4467両手鍋の持ち手を作っている途中の状態で、黄色い棒が持ち手の素材。弓なりに湾曲させたものは持ち手になり、その間にある中央と両側を広げたものが蓋のつまみになります。鍋に合わせながらあらかた成形したあと、よく焼き鈍して、酸で洗い、冷えた状態で手で持って仕上げます。
                     
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                    銅鍋の重さについて  The weight of Copper pans.

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                      4382フライパン左

                      もう、すっかり定着しました「左手用フライパン」です。レギュラーに作っているものの中では一番軽い方です。あまり直径が小さくなると、ガス台の上で安定しませんが、フライパンは浅く広いので、もう一サイズ小さいものもいいかもしれません。逆に、大きくなると重くなりますので、敬遠される事もあります。フライパンは重心から離れたところで持ちますので、両手鍋に較べると重く感じます。重心の真上を持つ「つる鍋」は、片手で持つにもかかわらず、軽く感じます。

                      重さは、本体部分の厚さと持ち手の形状で決まります。銅板の厚さは、本体が大きいものほど厚くします。丈夫さと熱の伝わりをむらなくという理由からですが、多少薄くしても火加減に注意して使っていただければ、、おおきな問題はないでしょう。汁物、煮物、炒め物では、やはり高温になる調理ほど、厚い銅板が適しています。厚さを薄くし、持ち手を細くすることで、2〜3割軽くする事はできます。オーダーされる時にご相談いただければ、検討しながら制作します。しかし、はじめて展示会場で持ってみて、「わっ!重い」と感じても、何回か使ううちに手がその重さを覚えて、慣れてしまいます。煮込み用の両手鍋などは、中身の方が本体より重くなりますので、本体を軽くしても、使用感があまり変わらないこともあります。

                      重さだけでなく、直径と深さ、持ち手の形状など、オーダーされる際にお気軽にご相談下さい。出来るだけ使いやすく作りたいと思います。

                      No.4382 フライパン 直径17.9cm 本体部分高さ4.2cm 持ち手長さ15.5cm 重さ477g
                      税別本体価格 ¥38,000

                       
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                      銀流し部分をヘラで磨く

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                        銀流し「/ヘラ磨き

                        またまた突然に酒器大小、軽井沢のお店にと言われ、急遽仕上げ。銅のパイプに銀ロウを融かして塗る工程まではやってありましたので、急いで鎚ち、錫をひいて、いぶし仕上げの後で、最後に細かい真鍮ブラシで磨きます。それだけでは、銀流しの部分がピカッと輝かないので、滑らかに磨いた鉄のヘラでこすりつけて艶を出します。彫金の人ならそこは「青棒」という緑色の研磨剤と回転フェルトで艶だしするのですが、力任せにヘラを押し付けて銀の表面の細かいキズを埋めて光らせる方が私の性格に合うようです。使っているうちに黒ずんできたら、ステンレスのスプーンの腹でこすってみて下さい。ピカッと輝きます。銀器磨きを使う時は、銅素地の部分にかからないように、気をつけて下さい。薬剤を使うよりは、歯ブラシにクレンザーをつけた磨いた方がきれいになりますが、その場合も銅の部分は避けて下さい。

                        根が乱暴なのか、きちんと職人修業を経験していないせいか、私の工法はかなり力任せなところがあります。日展や伝統工芸展向きの仕事ではありません。普通の人が普通の暮しの中で普通に使うことを想定し、それに耐えられる強度のある道具を作っています。もっとも、有名公募展では、鍋釜は門前払いでしょう。一度も応募した事はありません。その上、鍛造の銅鍋作りなんてまさに「絶滅危惧職」ですので、競争相手もあまりおらず、勝手に「日本一の鍋作り」なんて言っています。「井の中の蛙」をやっているうちに、回りに井戸そのものが無くなってきてしまいました。他人と競争しても仕方ないので、昨日の自分と競うように・・・今日仕上げたものが、過去に作ったものより出来が悪いなんて、許せませんよね。

                         
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                        大きい鍋を試作中

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                          大きい鍋の試作

                          大きい両手鍋のオーダーが続きました。一つは「おでん鍋」。おでんダネが重ならないように広く浅い両手鍋の注文です。深さは7〜8cm、直径30cmのご希望です。いつも使っている銅板の幅を考えると、ぎりぎりその大きさが作れるかどうか、際どいところです。そのバランスでは最近の制作例がないので、とりあえず鎚ってみました。結果は高さは8cmで直径が29cm。1cm足りませんが、さてどうしよう。これはべつの形に仕上げるとして、もう一度新たに鎚つことにするか、迷うところです。オーダーに対する意地ってものがあります。

                          深い方は大量のリンゴジャムを煮たいと言う方からの問い合わせ。ご希望のサイズを決めていただくのに、こちらに充分なデータがありません。とりあえず今、手持ちの銅板で最大のものが、どんな寸法と容量に仕上がるか、試作することにしました。この二つは同じ大きさの銅板から鎚っていますが、深い方はまだ仕上げ鎚ちの手前です。深く絞ると直径が小さくなるのですが、比例するわけではありません。1cm深くすると、直径が1cm短くなるわけでもありません。その上、容量も少し変わりますが、いずれの数字も、鎚ち加減で変わります。小型中型のものでは、いろいろ作ってデータの蓄積もありますし、鎚ち加減でそれほどばらつきませんが、大型のものは試作した方が早いと、頭で考えるのを中断しました。試作品が注文通りのサイズにならなくても、最近大型の両手鍋の人気が出ていますので、売れることは間違いありません。それどころか、次の展示会に出せる大振りの両手鍋は、二つ前の記事のものしかない有り様です。なんだかんだ言っても、作るしかないのです。

                           
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                          銅素地のままで仕上げると

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                            銅素地のままで仕上げ

                            銅鍋は仕上げ鎚ちが終ると内側に錫を融かして塗り、通常はいぶし仕上げ(硫化仕上げという表面を焦げ茶色に変化させる工程を施します。しかし、使用頻度の高い(洗う回数の多い)プロが使う場合などでは、洗いやすいように銅素地のままで仕上げることがあります。次の使用にむけてすばやく洗うために、外側はたわしやクレンザーを使うことがあります。いぶし仕上げは、クレンザーを使うと落ちて、銅素地が現れます。始めから、素地のまま仕上げておいた方が、扱いやすいことになります。

                            一般家庭でも、フライパンのように、使用頻度が高く、油汚れが焼き付きやすい道具では、毎回きれいに汚れを落とした方が、きれいに保たれます。食卓に出した場合でも、いぶし仕上げをする側面はあまり見えませんので、ピカピカの銅色でも、派手すぎることはないでしょう。左の片手鍋は、空焚きの修理に戻ってきた際、ご希望で素地のまま仕上げてみました。蓋付きなので、ミルクやコーヒーに使われる蓋のない片手鍋より、煮物など時間をかけて使われるケースが多く、それだけに汚れが焼き付きやすくなります。使い道を考えると、素地のままで手入れしやすく、という選択は納得です。

                            いぶし仕上げされた銅鍋も、あまり汚れたり、黒ずんだりした時は、スポンジに柔らかい側に液体クレンザーをつけて、軽く好みの状態まで、色を落としてもいいでしょう。銅鍋の良さは熱の伝わりで、そのためのポイントは形です。あまり色にこだわらないで、特に内側の汚れはしっかり落す方が機能的に使うことになるでしょう。
                             
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                            片手鍋のコクタン持ち手を取付ける金具

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                              片手鍋持ち手取付金具

                              3カップ用と4カップ用の2サイズの片手鍋は通常、コクタンの持ち手をつけています。硬いコクタンを打ち込んでも壊れず、本体との接合がはずれないように取付金具はしっかりした構造でなければなりません。厚さ1mmの銅パイプを加工します。鍋本体とは、小さなリベット8本でとめてから、隙間に融かした錫を流します。補強する意味と同時に、隙間を塞いで水が溜まることを防ぎ、錆が出ないようにします。

                              重く硬いコクタンですが、それでも湿度に応じて伸び縮みします。乾いたデパート会場に1週間展示していると、少し縮んでガタつくことがあります。洗う時に持ち手まで濡らせばすぐに元どおり、ピシッとしまります。はずれないように真鍮の釘を3本打ち込むのですが、それが抜けてきたという報告もありました。ガスの火が側面にまで上がるほど大きいと、金具の内部でコクタンも次第に炭化します。持ち手を濡らさないように丁寧に洗うと、かえって木が乾きすぎるかもしれません。

                              深型の片手鍋では、持ち手が食卓で他の器にぶつかりにくいように、角度を少し上向きにつけています。浅型の方は、台所中心の道具ですので、角度は寝かせ気味です。この角度の好みは、ガス台の高さや使われる方の身長で微妙に違うかもしれません。しかし、持ち手の長さのお好みを指定されることはよくありますが、角度までこだわる方はあまりいません。展示してある片手鍋の持ち手の角度が、。手に持ってみて合わない気がしましたら、どうぞご相談ください。案外重要かもしれません。

                               
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                              両手鍋の持ち手、いろいろ

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                                両手鍋持ち手集

                                上段は私が作っている両手鍋の持ち手、下段は市販のものです。上段のものは真鍮の丸棒を熱しながら、鎚って加工しています。鍋本体との接合は、ドリルで穴をあけ、銅製のリベットでとめてから、本体との間に錫を流し込んでいます。この工程は全て手作業です。一方、下段の左側のものでは、持ち手は本体と同じ銅製。プレス機を使っているようですが、手作業かもしれません。中央と右側は同じもので、持ち手は真鍮の鋳造品です。型に融かした真鍮を流し込んで作ったものです。同じ真鍮でも、鎚つことが出来るものと鋳造用では成分が違います。本体とのとめ方はどちらも銅のリベットです。

                                持ち手と本体の間に錫を流し込むのは、補強のためだけではありません。隙間があると水分が残り、錆の原因になります。汚れも隙間に入って、洗ってもとれません。下段右は、修理を頼まれて錫引きするために加熱(250度より少し高温)したところ、隙間の油汚れが融け出して、流れた様子です。きれいに落して、磨き上げ、新品同様になった状態が中央の写真。通常、煮物汁物では100度まで、揚げ物でも200度程度ですので、普通に使う分には隙間の汚れが出て来ることはないでしょう。鍋の外側ですので、食べ物にも影響はありません。フライパンや中華鍋の内側にべったりと黒く焼き付いた油汚れは、やはり取り除いた方が良さそうです。

                                食卓に出したときや調理中に邪魔にならないよう、持ち手を鍋本体の上縁より下につけています。ちょっと持ちにくいかもしれませんので、大きめに鍋つかみで握りやすい形状にします。上段右のように、上縁より上につける場合は、小さめに作ります。この形状は洗いやすいかもしれません。たかが持ち手ですが、本体や蓋との釣り合い、デザイン性の問題もあります。持ち手で失敗すると、それまでの作業がフイになりますので、案外緊張する作業です。
                                 
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                                信州の地酒を酌み交わす酒器 その工程

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                                  酒器工程

                                  銀座に出来る長野県の店で使う予定の両手鍋は仕上げて納品しましたが、今は次の酒器にかかっています。海のない長野県ですから、海産物の美味しさに頼れません。米と野菜が中心ですが、地酒は美味い。山に囲まれた盆地がいくつもあって、谷筋ごとに町が発達しますので、それぞれに食文化が異なり、小さな蔵元が頑張っています。開店の折りには、ぜひお試し下さい。

                                  酒器と筒状の花入れは銅のパイプから作ります。平な銅板を絞って作る事もできますが、深く細く絞り上げるのにはひじょうに時間がかかります。価格が上がり過ぎて、用途ととのバランスがとれません。機能性に遜色がなければ、パイプから作る事に問題はありませんが、デザインはその工程に無理がないフォルムを考えます。

                                  左端の2本は長いパイプを切って汚れを落とした状態。その上部3分の1程度に、銀ロウを融かして被せたのが3番目。金ブラシで銀ロウの部分を磨いてあります。銀ロウは650度前後で融けて、銅に密着します。メッキよりずっと厚くのりますので、鎚ち絞ったり伸ばしたり、鎚目をつけても剥げることはありません。

                                  通常の金床は使えず、丸棒状の鉄を中に通して外から鎚で鎚ちます。上部銀ロウ部分のざらざらした仕上げは手前の鎚、下部の縦長の鎚目は向こう側の鎚です。両端は鎚ち伸ばし、中央部は逆に絞り込みながら、鎚目を施します。上部をざらざらに仕上げるのは、手で持った時にべたつかず、滑りにくいという効果もねらったものです。酒器としては壊れない事が最大の長所でしょう。ご家庭でも安心、お店では毎日何回転も使われる道具です。

                                   
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                                  両手鍋の銅蓋/工程を見る

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                                    銅蓋工程

                                    台風は早足で通り過ぎ、作業場は少しだけ雨漏り。3.11以来、冬の大雪、御岳山の噴火など、自然のリスクについて考える事の多い田舎住まいです。このところ、期限が限られている両手鍋4個の仕事にかかり切りです。7〜9月は大小5ヶ所の展示会があり、次に備えて売れたものを補充し、新作もと気持ちは焦りますが、やる事はやらなければなりません。両手鍋本体は鎚ち終えて、蓋にかかっています。本体の口径は21cm弱で、蓋の銅原板は直径26cm。通常、本体の口径の1.3倍よりちょっと小さめにします。本体銅板の厚さは1.5mm〜2mmですが、蓋の外縁部を折り返さない炊飯型以外は、蓋の銅板の厚さは1.2mmです。小さい片手鍋の蓋は1mmを使います。

                                    荒鎚ちの段階では(真ん中手前)本体口径より少し小さくなるまで鎚ち絞ります。右側のもののように、中にすっぽり入る感じです。真ん中うしろは、途中まで仕上げ鎚ちをした状態で、もう少し絞り込みながら仕上げる必要がありそうです。左が蓋の仕上がった状態です。4個の鍋、本体と蓋がどの組み合わせでも使えなければなりませんので、通常より僅かに蓋を小さく、2mm程度の遊びがある状態にします。4個を直径と高さともにぴったり同じに仕上げるのはやっかいで、高さは3mm程度、口径は2mm以内の違い、という辺りで勘弁してもらいます。高さは一番小さいものに合わせて切りそろえてしまえば、ぴったりになりますが、わざわざ小さくする意味もありません。

                                    蓋の重さは本体の半分ぐらいになることが多く、と言う事はかかる材料費も半分ぐらい。仕上げるのにかかる時間も本体の半分ぐらいですので、価格も半分ぐらいに設定しています。本体だけなら8万円の鍋に銅蓋をつけると、総額12万円になるという具合です。木の蓋は通常おまけでつけていますので、銅蓋のものは高くなりますが、大きな蓋にたっぷり熱い蒸気が対流し、料理の仕上がりは早く、蒸らされて柔らかく、弱火であまりかき混ぜる必要がないので、煮崩れしにくくきれいに煮上がります。そして、食卓に運んだ時の、豊かさ。木の蓋をのせる両手鍋に較べると、じっくりサイズや形を考えながらオーダーされるお客様が多いのも特徴です。

                                    蓋が終ると、持ち手や蓋のつまみなど、細かい作業になります。使うのは真鍮の丸棒で、熱しながらの作業も入ってきます。真夏の暑い盛りにはあまりやりたくない作業ですが、季節は快適。次の台風で作業場の屋根が吹っ飛ばないうちに仕上げてしまいたいと思っています。

                                     
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                                    酒器に見る注ぎ口の形  Think about the lip of a Sake-bottle.

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                                      酒器大小

                                      やかんはもとより、片手鍋、フライパン、かんつけ、酒器などのいくつもの銅器に注ぎ口がついています。両手鍋、つる鍋、方形鍋など、口を付けていないものでも上縁を外側に折り曲げてあるものは、たくさん入れていない限り、そのまま傾けて液体を注いでも、外にあまり回らない構造になっています。やかん、かんつけ、酒器など食卓で使う事の多いものは、注ぎ口の水切れに良さが問題になります。

                                      市販の行平鍋やフライパンなど、三角形に出っ張った注ぎ口をつけているものをよく見かけます。注ぐと裏に伝わって不便な思いをした人も多いと思います。火にかけた時に、鍋やフライパンの外側が汚れていれば、それが黒く焼き付いてこびりつきます。やはり。スキッと水が切れる方がいいですね。私は口の形状を丸くしています、あまり狭いと注ぐ勢いを制限しなければならないので、三角の口よりかなり広くしています。角度は一定ではなく、外側にめくれた感じで先端にいくほど水平に近づき、場合によってはマイナスの角度になります。

                                      水切れの良さは、形状だけではなく口の先端の厚さも関係するようで、薄くするときれいに切れます。陶器などでは強度の問題があり、薄く出来ないようです。その点、金属器は問題なく薄く出来ますが、それにしては市販のやかんなど、お行儀の悪いものが多く、デザイナーの質が問われます。とくにかんつけや酒器は、多少酔っていても、小さな猪口にきれいに注げないといけません。細く筋のように垂らしてもスキッと注げるのが勝負所です。

                                      写真では、2合用と1合用の酒器を並べてみました。これからは燗酒の季節ですが、冬のストーブに顔をほてらせながら、冷たく冷えたのがいい、と言う人もいます。酒器も、お酒の小瓶と一緒に冷蔵庫に入れておくと良いでしょう。

                                      2合用は税別本体価格 ¥24,000   1合用は同 ¥20,000
                                      展示会では鍋類より割安で、男性客も多いことから人気で、今日も3日後の横浜高島屋展示にむけて作っているところです。オーダー、いつでも承ります。
                                       
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                                      民芸展トークセッションで話したこと

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                                        ホンミスジとヒオドシ

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                                        今回の展示では地元という事もあり、会場を管理する吉川館長には、この仕事を始めたころ佐久の民芸協会でお世話になった歴史もあり、民芸館を拠点に活動する信州宮本塾の学習会という企画で工芸について語り合う集まりを持ちました。そこで私が中心的に話したことは、鍋を「工芸として作る」ことについて、なぜホームセンターで売っている鍋の100倍の価格になるのか、デパートで売っているちょっといい鍋の10倍の価格になるのか。10倍100倍の価値があるのだろうか、という話題でした。会場で参加した方々はそのような突っ込んだ疑問は遠慮して聞きませんので、私からの問題提起です。

                                        私は以前から、工芸とは幻を売る仕事だとたびたび話してきました。もの作りの仲間達からは嫌われます。自分たちは確固とした「もの」、人の暮らしに役に立つ機能性の高いものを作っていると主張されます。使い手からはエッと怪訝な表情が返ってきます。やはり、使いやすく便利な道具を選んでいると思われているようです。もちろん道具である以上は機能性が求められるのは当然です。「もの」としての良さには、機能性、多用途性、耐久性や修理可能な事など、いろいろあるでしょう。ホームセンターの500円や1000円の鍋に較べると、たぶん10倍の価値は何とかクリアーできるのではないかと、不遜にも考えています。10倍の値段で売っているデパートの鍋よりは、「もの」として優れているでしょう。

                                        では100倍の価値があるか、デパートの鍋の10倍の価値があるのか。現実にはその値段でも何とかお客様にお買い上げいただいています。(その価格でも私は低所得層なのですが) その部分が、工芸の「まぼろし」なのではないでしょうか。私の作る鍋の多くは、食卓に出して使う事を想定しています。台所では食事を作る道具なら、食卓では食事を演出する役者です。前者が機能性なら後者はデザイン性と言えるかもしれません。鍋を作る側にとって、前段が「工」で後段は「芸」と言うことになります。「芸」と言うのは、絵画でも文学でも演劇・写真写真・映画でも、すべて幻です。幻を見るなら、楽しい思いをしたい、あるいは鋭く問題をえぐり出すエキサイティングな幻を見て、現実の暮らしに戻りたい。幻に騙されるとこと、高い表現力の芸に騙されたい、そんなスタンスで芸に触れたいと思います。

                                        鍋と言う道具を買うと、絵画などと違って、買われた方が今度は道具と食材から料理を作る作り手にかわります。その先には自分自身、家族、友人、レストランならたくさんのお客様が、消費者として存在します。料理も幻を作る芸です。栄養摂取という機能性の部分だけなら、食材そのまま、あるいは錠剤やチューブの食もあります。味や見た目やタイミングなど、口に入り喉を通る一瞬の幻で、その行き着く先は・・・。料理こそ夢まぼろしです。料理を作る人は演出家です。気合いの入った芸を演じる役者としての道具。機能性の先にある幻こそが価格の根拠、お客様が期待する部分なのではないでしょうか。数字化できる機能性に対して、その部分は一つ一つが気が抜けない仕事になります。
                                         
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                                        「打ち出し」ではなく「鎚ち絞る」とは

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                                          絞る写真

                                          展示会場でお客様から「打ち出し」の銅鍋ですねと、よく言われます。始めてのギャラリーやデパートの店員さんにも言われます。そのたびに「打ち出すのではなく」「鎚ち絞る」のですと答えながら、説明することになります。動画を用意しておけばわかり易いのですが、言葉であらわすのはなかなか難しいものです。平な銅板が鍋になるのですから、内側から打って外に出していけば立体になると考えるのが普通です。

                                          円周部はそのままで、中心部を延ばしたら、延ばした部分は薄くなります。火に当たる底が一番薄くなったのでは、鍋としては困ります。上の写真は鍋の本体を成形している工程です。銅板が光っている部分は左の金鎚で既に鎚ったところで、上縁側の艶消しの部分はこれから鎚つところです。鎚った部分が内側に入って円周は、まだ鎚っていない部分より小さくなっていることが判ります。鎚っていない部分が中に引っ張られて波打っています。餃子の皮に餡をおいて、皮ごと親指と人差し指で円を作った上に置き、餡の乗った部分を上から押すと、周囲の皮はしわしわになります。銅板の場合は、餃子のように皺を重ねてはいけません。出っ張った山を鎚って谷の方にならしていきます。その結果、一度全体を鎚ち絞ると上端の直径は1〜2cm小さくなります。

                                          焼き鈍した銅板は鎚つと硬くなります。硬くなっている部分を、頭が半分見えている金床に当てておいて、まだ柔らかい部分を外から鎚って凹ませれば、硬くなった部分はふくらむことなく、柔らかい部分だけが内側に絞られていきます。次々、上縁部に向って同心円状に鎚っていきます。これが「鎚ち絞る」という作業で、上縁まで鎚ったら、また全体を焼き鈍して、底の方から鎚ち絞っていきます。底に近い部分はあまり絞りませんが、鎚ち固めておかないと、その先を鎚つ時しふくらんでしまいますので、鎚の平らな面で鎚っておきます。側面は鎚の横長の頭で鎚ちます。

                                          ということで、工程の半分は金鎚でカンカン鎚っています。人間プレス機。電力でハンマーを打ち下ろす「鍛造機」という機械もあるようですが、鉄を鎚ち延ばすのには使えても、銅の絞りには不向きなようです。適度な空腹感を味わいながら鎚を振るうのが、程よい加減のようです。
                                           
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